透明水彩における単一顔料と混合顔料の話です。今回の話はちょっとマニアックなので、初心者の方は、かえって混乱させてしまうかもしれません。
絵具と顔料の関係を読み解いてみました。
参考までにどうぞ。
目次
単一顔料と混合顔料
水彩絵具のパンフレットを見ていると、
全72色のうち52色が単一顔料で作られています
とかかれていたりします。

単一顔料の絵具がメインですよー。というアピールですね。文脈からすると、単一顔料というのは優れた絵具だという感じがしますよね。さてどうなのでしょう?
単一顔料とは
絵具は顔料という色のついた粉と、アラビアゴムというメディウムから出来ています。
単一顔料というのは、一種類の顔料から出来ている絵具です。
例えば、フタロブルーという色はPB15(フタロシニアン顔料)という顔料で作られています。
一種類の顔料だけで作られているということです。
混合顔料とは
一方、混合顔料というのは、何種類かの顔料を混ぜて作られています。
例えばサップグリーンという色があります。黄緑の顔料はないので、黄色の顔料と緑の顔料が混ぜて作られています。
たとえばウィンザー&ニュートン のサップグリーンはPY110(黄色)とPG36(緑)が混ぜられています。
単一顔料が優れた絵具?
単一顔料は優れた絵具なのでしょうか。
よく言われるのは、絵具は混ぜるほどに色が濁っていくから。ということです。色が混ざっていない単一顔料の方が優れている。というわけです。このことはウィンザー&ニュートン のパンフレットにも書かれていました。
でも、これは絵を描く人間からすると
半分あたり、半分はずれです。
色は混ぜていくほどに、色が鈍くなるというのは本当です。色々な色味を混ぜていくと、彩度は下がっていきます。
なので。鮮やかな色にしたいときには、単一顔料と単一顔料を混ぜた方がいいのです。

単一顔料同士で混色するしかない
でも、必ずしも色が鈍くなる=ダメなこと ではありません。例えば混合顔料のサップグリーンは確かに、単一顔料のフタログリーンよりは彩度が低く渋い色です。

(ビリジャンヒュー)
鮮やかすぎてこのままでは使いにくい

でも、この渋さがとても、便利なのです。オリーブグリーンなんかはもっと渋いですが、これまたとても便利です。
この渋みのある混合顔料を、混ぜてもっと渋い色を作ることが必要なときもあります。
この場合は、混合顔料の方が便利です。

一方イエローオーカーは単一顔料ですが、彩度が低く渋い色です。

もともと彩度の低い黄色
要するに色の鮮やかさと単一顔料かどうか、は、関係ない場合もあります。
色は渋くても便利なのものもあります。
問題はそこではなく。
各メーカーが単一顔料が多いです!とアピールするのは、色んなバリエーションのある絵具がそろってますよ!!というアピールなんです。
絵具は顔料によって性格がちがうのです。
似たような色でも、粒子が細かい色、粗くて粒状化する色、透明感がある色、ない色、着色力が強い色、弱い色。
これらの性質は、他の顔料と混ざると薄まってしまうことが多いです。
単一顔料の多いメーカーは、色々な性質の色を取り揃えていますよ。ということなのです。
これは絵具を買う側からすると、選択肢の幅が広い!ということになります。
たとえば赤1色にしても、
「カドミウムレッドと似た色見で、もっと透明感があって、滑らかで、着色力が弱い色ないかな?」
という場合、単一顔料が豊富なメーカーは希望通りの色があったりします。
もうひとつ。
さっきのサップグリーンを例にとると、顔料を見るとサップグリーンはビリジャンヒューとイミダゾロンイエローで作られている色なので、この2色があれば作れます。

混合顔料は便利だけれど、裏を返すと、単一顔料の絵具があれば、作ることができてしまう色味なので、作れない単一顔料が多いメーカーの商品の方が、バラエティに富んでる、といえます。
白が混ざった混合色には注意
ただ、様々な混合色の中でも、白が混ざった色には注意が必要です。

このパステルカラーは、これはこれでキレイな色味で、もちろん効果的な使い方もあります。
でも、混色のときには、やはり彩度が落ちてしまうし、透明水彩の強みである透明感が損なわれてしまいます。
他の単一顔料の不透明色のように(例えば、カドミウムレッドやベネチアンレッドのように)強い発色があるわけではありません。
初心者の場合は、最初はパレットに入れない方が、透明水彩の特徴を生かした、絵を描くことができると思います。
初心者は単一顔料、混合顔料どちらを買うべき?
赤、黄色、緑、青、黄土色はとりあえず単一顔料のものを一色ずつ買っておく。
これは混色によって彩度を下げないためです。
とくに三原色は必ず単一顔料で。
その他に、使いやすい緑を買い足すときには混合色がメインになるはず。サップグリーンやオリーブグリーンなど。
黒やインディゴも混合色だが、全く問題なし。
オレンジやむらさきを買い足すときは自然と単一顔料になります。
茶色は単一顔料も混合色もあるけど、どちらでも大丈夫。もともと渋い色だし。使いやすそうな色をチョイスでOK
とこんな感じです。
これまでのまとめ
- 単一顔料の方が混合顔料より優れているとは限らない。(色は鮮やかな方がいいとは限らないから)
- 混合色で色鮮やかなものもあれば(ピーコックブルーなど)、単一顔料で色が渋いものもある(イエローオーカーなど)
- 色の彩度と、単一顔料かは関係あることもあるし、関係ないこともある。
- 単一顔料の割合が多いメーカーは、色のバリエーションがあり、選択肢が多いメーカー。
- 混合色の中でも白が混ざった色は注意。
絵具のパンフレットを見てみる
ほとんどの人は、絵具のパンフレットを見ながら、絵具を選ぶことはないと思います。
顔料がどうの、ということではなくて、店頭の絵具ケースに貼られている色見本を見て色を買われる方がほとんどだと思います。
私もそうだったのですが、色々なメーカーをまたいで、絵具を買ううちに、似たような色を被って買ってしまったり、逆に同じ色を違うメーカーで買おうと思ったとき、困ることがありました。
店頭の色見本では判断できないのです。お店の色見本が色あせてることもあるし、全部のメーカーの絵具が同じ店にあるとも限らない。
そこで、メーカーの絵具パンフレットを持って帰ることにしたのです。

パンフレットには使われている顔料の番号が載っているので、それを参考にすることにしています。
違うメーカーでも、顔料の番号が同じであれば、大体同じような色、という予想をすることができます。
透明水彩の絵具パンフレットを眺めていると色々なことが分かります。
どこのメーカーがどんなことにこだわっているか、なども。
あとは、自分で色見本と混色見本も作って、どのくらい彩度が落ちるのかも確かめてみました。
今回は顔料のマニアックな話になってしまいました。
もちろん、絵の具は好きなものを買えばよいのですが、単一顔料、混合顔料について、もし、迷ってしまった人がいたら、参考にしていただければ嬉しいです。
今回はちょっとややこしい話になってしまったかもしれません。
あくまで一個人の考えとして、参考にしてください。