アルシュという水彩紙についてお話しようと思います。
アルシュは高級水彩紙ですが、比較的メジャーなので、ご存知の方も多いと思います。
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アルシュとは
アルシュはフランスの水彩紙です。
こちらはコットン100%の水彩紙です。値段がかなり高く、最高級水彩紙ですが、特にプロ作家に愛用者が多いです。もちろんにじみや吸水性、表面強度、どこを取っても素晴らしい水彩紙です。かなり知名度も高いので、使ったことはなくても「どうやらアルシュはすごい水彩紙らしい」という話を聞いたことがあるのではないでしょうか。

高級水彩紙の中でも最高級!
プロも愛用している憧れの紙♪
個人的な話をしますと、私自身はもともとアルシュはあまり得意な紙ではなかったのですが、表面の目の形が少し変わったこともあって、最近ではとても活躍する水彩紙となりました。アルシュでないとできない表現もあります。
今回は気になる最高級水彩紙アルシュについて、レビューをしていきたいと思います。
アルシュの目の種類について
アルシュ水彩紙は、中目、細目、極細目の3つのタイプがあります。表記がわかりにくいのですが、アルシュの中目が一般の水彩紙の荒目、細目が中目、極細が細目のイメージで大丈夫です。
アルシュ水彩紙の目 | 英語表記 | 一般の水彩紙の目 |
中目 | Rough | 荒目 |
細目 | Cold Pressed | 中目 |
極細目 | Hot Pressed | 細目 |
中目はいわゆる荒目(Rough)の目で、かなり凸凹が大きい水彩紙です。表紙はオレンジ色です。
細目が真ん中の目のタイプで、一番使っている人が多いです。Cold Pressedという表記のもので、緑色の表紙のものです。私もこの細目を愛用しています。
極細目は、Hot Pressed という表記で、表面はかなりツルツル(というよりすべすべ)の水彩紙です。どちらかというと細密描写に向きます。
紙の色について
アルシュには実は「ナチュラル」と「ブライトホワイト」の2種類の紙色があります。
とは言っても、ほとんどの人は「ナチュラル」の方しか見たことがないと思います。

へえ〜!
ホワイトなんてあるんだね!
それもそのはず、一般にブロックとして売られているのは「ナチュラル」のみ。「ホワイト」は存在はしているのですが、カットされていない紙一枚の状態か、ロールでしか買えないみたいなのです。が、たまに画材屋さんでカットペーパーが売られていることがあるので、もし見かけたら購入してみてください。(そのぐらい、ホワイトはレアです)

ただ、アルシュはナチュラルといっても紙はそれなりに白く、描いていて邪魔になるような色がついているわけではありません。
ちなみにこちらがブライトホワイトで描いたもの。特に彩度が高いピンクやグリーンを使った時に、冴えた発色が感じられます。


アルシュ(細目)の特徴
今回は特に愛用者が多い、細目(Cold Pressed)のレビューを中心にのせていきます。にじみ以外はどの目であっても共通する部分が大きいです。
- 表面がとても強い。マスキングはもちろん、こすったり、削ったりすることもできる
- たっぷり水を吸うので、にじみやグラデーションがとてもきれいにできる。
- 重ね塗りもでき、リフティングも少しできる
- 乾くのがゆっくりなので、落ち着いて作業できる。
- 弾きが強く、絵具を弾く感じあり。
- バックランが起きにくい。
- 発色はやや落ち着いた印象
表面が強い
アルシュの表面はとても強いです。マスキングは、どのメーカーのものも使うことができます。
何度も消しゴムで消したり、硬めのナイロン筆で擦っても、紙が傷む気配はありませんでした。とにかく頑強な水彩紙です。描いた部分をゴシゴシこすってリフティングしたり、削ったりする技法とも相性バッチリです。

マスキングをたくさん使いたい、何度も重ね塗りをしたい、という場合はとても使いやすいと思くおすすめの水彩紙です。逆にいうとなかなかここまで表面が強い水彩紙を見つけられません。
まとめるとこんな感じです。
にじみやグラデーションがとてもきれいにできる
透明水彩らしい、ぼかしやグラデーションなどの技法はとてもきれいにできます。絵具がフワッときれいに広がります。こんなにきれいににじみができる水彩紙はないかもしれません。
私は長いことアルシュの素晴らしさを言語化できずにいたのですが、最近ようやく分かってきました。


他の水彩紙だとにじみの広がり方が不均一だったり、色の濃さに差がついてしまいやすいのですが、アルシュはにじませたところから丸く綺麗に均等に色が広がるんです。そのために多少雑に色をのせても、とてもまとまって見えますし、絵具のコントロールもしやすいです。
あとは水彩紙の中に色がギュッと吸い込まれるので、それも仕上がりが綺麗に見える要因かなと思います。

また乾くのもゆっくりなので、ゆったり落ち着いて作業ができます。そのため大きな作品を仕上げるときにも、待ってくれるので、とても焦らず作業ができるし、グラデーションの仕上がりもとても綺麗です。

これを私は「アルシュの神にじみ」と勝手に呼んでます。乾くまでに時間がかかるので、平塗りをムラなく仕上げるのも得意です。
重ね塗りが得意、リフティングもできる
何度か色を重ねていっても、下の色が動いたりしないので、重ね塗りも得意な紙です。下の塗り見本を見ていただけると分かりやすいのですが、赤を塗った上に黄色を塗り重ねても、赤が全く染み出していません。これは重ね塗りがしやすい紙だということを表してます。
一方でリフティングも少しできます。そこまで色が抜ける訳ではないのですが、定着した絵具を少しだけ動かすことができます。ウォーターフォードに比べるとリフティングができるけど、ランプライトやストラスモアよりもリフティングができないという感じです。


水彩紙は、重ね塗りがしっかりできるものが、表現の幅が広くて使いやすいのですが、でも少しだけリフティングができると、ちょっとしたはみ出しの修正や境界をぼかしたりできるので、やはり便利です。アルシュは紙肌が強いので、少し硬めの筆でこすると境界がボケます。
重ね塗りができることとリフテティングができることは両立しにくいのですが、力加減によってどちらもできるアルシュは、癖がなく色々なタイプの表現と相性がいいと思います。
弾きが強い
にじみどめが強く、よく弾きます。
弾きが強い、というのはピンとこない方もいらっしゃるかもしれないので、画像を載せておきます。

これは各メーカーのウルトラマリンとマゼンタを塗っていますが、ホルベインやウィンザー&ニュートンで塗ったものは境界がギザギザしていると思います。
これは紙のにじみどめが、絵具を弾いているのです。なので、滑らかな線を描きにくかったり、塗ったところがギザギザになってしまいうまく塗れなかったりするのです。高級水彩紙はにじみどめが強いものが多いですが、特にアルシュとウォーターフォードはよく弾きます。
これを解消するには…
オックスゴールが有効です。

絵具に少しオックスゴールを混ぜるだけで、とても塗りやすくなります。右がオックスゴールありですが、とても滑らかに塗ることができています。
アルシュで描く時は、オックスゴールも一緒に買っておくといいと思いました!
ちなみにですが、ブライトホワイトとナチュラルでは、ナチュラルの方が弾きが強かったです。

オックスゴールは便利だね!
また弾きが強いのと関係があるか分かりませんか、比較的風邪をひきにくいという特徴もあります。
乾くと色は少し薄くなる
乾くと画面に載せた時の色よりも、少し薄くなります。発色も少しだけ、抑えた感じになります。落ち着いた感じにまとまるのですが、一回の着彩でもの足りないときには、重ね塗りをするとよいです。
なぜこのようになるかというと、水彩紙の中の方に絵具の粒子が吸い込まれるからです。そのため見た感じは塗った直後より、落ち着く感じです。なので、アルシュで塗る時は、いつもの感じよりも少ししっかりめ鮮やかめに塗るといいです。
大きな紙で本領を発揮する紙
アルシュの魅力を再発見するきっかけになったのが、2024年11月の個展で飾ったこちらの大きな作品の制作でした。

横550×縦450cmある「時めぐりのエチュード」は、額装してみるとなかなかの大作だったのですが、大きな作品を仕上げるにあたって、ゆっくり乾く紙の方がうまくいきそうだと思い、アルシュのカットシートを購入して、それをパネルに水張りして描きました。

大きな刷毛や連筆を使って、色を塗ったのですが、絵具の乗り方が均一なので、快適に背景を塗ることができました。大きなサイズの紙での絵具のコントロールは本当に難しいので、(乾くスピードが速いと追いつかない、すぐにムラになる)いつも苦戦するのですが、今回は本当に理想の形で色を入れることができました。さすが!という感じ。何度重ねてもまったく傷みません。
逆に小さな水彩紙だとアルシュのよさが活きにくいので、これからは大きめの作品を描くときに積極的にアルシュを使っていこうと思いました。
アルシュの中目について(2025,6追記)
実はアルシュの中目は購入したことがなかったのですが(使い切れる自信がないから…少し試すには高い)、トライアルパックの中に入っていたため、ざっくりレビューを足そうと思います。
細目との比較を中心にしたいと思います。
当たり前だけど、とにかく目が荒い
アルシュの中目は、普通の水彩紙でいうと荒目くらいのザラザラ感になります。なので、かなり目が荒く、凸凹感がしっかりあります。今まで色々な水彩紙を見てきましたが、アルシュの中目はかなり凸凹が大きいと思います。
凹凸はしっかり色を塗ると案外気になりませんが、余白はぼこぼこが目立つので、少し暗く感じたりもします。が、アナログならではの材質感がしっかり出て存在感もあります。

繊細なイラストや人物を描く作家だと、表面の凸凹感を嫌う人も多いのですが、一方で凸凹がしっかりある方が好きという作家もいて、そういう人にはすごくおすすめです。
アルシュ中目のにじみ
特徴は、水をたっぷり吸ってかなり乾くのにも時間がかかるということです。色もしっかりめに発色します。細目もにじみはきれいにできますが、中目もまた少しちがった感じで、たっぷり・ふんわりにじみ、素敵です。

アルシュの極細目について(2025,6追記)
こちらもトライアルパックに入っていたもので色見本を作りました。アルシュの極細目については、以前に購入したことがあり、少しだけ作例があるので、それを載せます。
アルシュの細目と中目との比較でご紹介します。
滑らかな表面
極細目はかなり滑らかな表面となり、細密な描写や滑らかな表現に向いています。ただ、他の細目と同様アルシュの極細目は、乾くのがグンと早くなるので広い部分をムラなく塗るのはちょっと難しいです。またにじみも大きくは広がりません。(ただ、これもきれいににじみます)

そして水加減が多いとエッジもできやすいです。ただ、そこまで水分量を多くしすぎないで、細かい部分を滑らかに塗っていく塗り方には向いています。
強めの発色と鮮やかさ
アルシュの極細目で感じたのは、発色の鮮やかさや色の濃さです。滑らかな水彩紙では色は薄くなってしまいがちですが、アルシュの極細目はかなりしっかり発色していてきれいです。

滑らかさを重視しつつ、色をしっかりのせて鮮やかに見せたいときに使ってみるといいかもしれません。ちなみに私が以前描いたこちらのミニ原画は、オレンジがとても鮮やかに発色したのが印象的でした。

変化したアルシュ水彩紙(細目)の表面
個人的な話になってしまい申し訳ないのですが、以前、アルシュは苦手な紙でした。
表面がとても硬く、凹凸も大きかったです。ペンや鉛筆が紙の凹凸に引っかかることが多かったので、そのため下書きの線が綺麗に描けなかったり、細部の描き込みがしずらかったりしました。

最近買ってみたところ、表面の感じはかなり変わっていました。

確かにけっこうちがう!
(少しずつリニューアルされているのか、もしくは表面の紙目を作る布の摩耗か、真相は分かりません。もしかしたらロット差があるかも)
以前より、表面はより平らになりましたので、ペンや鉛筆での下書きも以前よりしやすくなり、マイルドになって万人向きの水彩紙になったように感じます。

ガサガサした感じの表面はかなりソフトになりました!
アルシュはとてもきれいに滲ませることができる水彩紙です。乾くのもゆっくりなので、にじみやグラデーションも、焦らずにじっくり仕上げることができます。にじみも大きく広がるので、ぼかしやにじみの技法を多用する場合は、本当に本当にきれいに仕上がります。

弾きが強いのは、以前とても塗りづらいと感じていました。塗ったところのエッジがガサガサしてしまい、きれいに塗れないので、意外と滑らかでソフトな表現には向いていないな、と。
ですが、今回オックスゴールを使って塗ってみたところ、思ったよりも弾きが軽減されて、滑らかにきれいに塗ることができました。今度からはオックスゴールと併用して絵を描いてみようと思いました。
アルシュをお得に買う方法(2025,6追記)
アルシュは元々高い水彩紙だったのですが、ここ数年何度も価格改定が入り、ますます高嶺の花になってしまいました。私もさすがにアルシュで練習をする勇気はないので、本番用に購入することにしてます。主に、大作を描く時や、複雑な技法をしたい時など、ここぞという時に使うつもりです。
ここで、耳寄り情報👂
アルシュを少しでもお得に買う方法をご紹介します。
アルシュの商品展開としては、
- ブロック(四方糊止めされているもの)
- パッド(一辺だけ糊止め)
- 中判シート(1枚ずつ買う、560×750mm)
- ロール(113cm幅x9.15m)
これは私が世界堂のウェブショップで見つけたものなので、もしかしたら他の展開もあるかもしれません。枯葉はとんでもない執着心の持ち主なので、これを全部1㎠あたりの価格を計算してみたのですが…(ドン引きしないで)

面積単位で価格を出さないとどれがお得か分からない!
結構価格が違いました。具体的な価格は伏せますが、
ブロック>パッド>中判シート、ロール
という感じの値段でしたので、中判シートやロールの方がかなりお得です。が、商品単価自体は高くなるので、「たくさん描く予定がある人」でないと、最初の一歩が踏み出しにくいかもしれません。
たくさん描きたい人には中判シートやロールがおすすめです。特に中判シートが1枚ずつ買えるなら、これが一番お試ししやすいです。(カットが面倒ですが)
ロールは巻きがきつくて、びしょびしょに濡らして水張りしないと巻きぐせが取れないみたいです。カット自体も大変だそうです。なので、それこそ大きな作品を描く時と、枚数をかなり確保したい人向けです。
そこまで描く自信がない人は、パッドがその次にお得です。

耳寄り情報だった!
お店によってはポストカードサイズのお試しやあまり大きくないカットペーパーがセットで売っていることがあります。見つけたら試してみてください!
またこちらの記事はコメントを書き込めるようにしたので、ぜひアルシュの好きなところを書きこんでいってください。
その他の水彩紙についてはこちらのサイトから、回ってみると便利です。レビューは少しずつ足していきます。
・消しゴムをたくさんかけても大丈夫
・マスキングに強い
・筆でこすっても表面が傷まない
・削っても大丈夫