重ね塗りの技法について、備忘録も兼ねて、徹底分析してみました。最近テクニック関連の記事が多く読まれるようになりましたので、お役に立てれば嬉しいです。
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透明水彩での「重ね塗り」とは?
透明水彩では、絵具は透明感があるので、「重ね塗り」はとても効果的なテクニックですよね。
とっても水彩らしくて、きれい!
透明水彩では絵具によって透明色、半透明色、不透明色、など透明度に違いがあるのですが、程度の違いはありますが、基本的にどの色も透明感があります。不透明色という表示がある色も完全に不透明ということはありません。そこが不透明水彩と違うところです。
不透明水彩やアクリルガッシュは顔料の密度がかなり高いので、下の色の上に別の色をしっかり重ねれば、下の色は見えなくなります。
なので、透明水彩では、「重ね塗り」で表現することがかなり大切なテクニックになりますし、絵具が透明なので、下の色を完全に覆い尽くすような描き方はできない、というのも重要なポイントです。(下の色を均等に塗ってから、別の色を塗って新しいものを書き加えるやり方です)
透明水彩で重ね塗りするとどうなる?
下の色の上に別の色をのせると、下の色はかなり透けて見えます。
同じ色を重ねる
同じ色を重ねてみます。塗った後に、完全に乾かします。乾かした後に、もう一度同じ色で塗ると、重ねた部分は色が濃くなります。
段階的に濃くしてみると、こんな感じ。
これは後で影を描き入れる時に便利です。
透明水彩は水の分量が多く、コントロールが難しいので、色の濃淡は重ね塗りで表現した方が簡単なことも多いです。
重ね塗りが何回くらいできるのかは、水彩紙にもよります。
違う色を重ねる
次は違う色を重ねてみるパターンです。
なので、黄色の上に青を載せれば緑に見えます。
明るめの色の上に暗い色を重ねるのが普通の感覚ですが、透明水彩の面白いところは下の色も上の色も透明なので、暗い色の上に明るい色を重ねることもできるのです。
例えば、濃い緑の上に黄色を重ねる…など。
ポイントは、
色を重ねると色が混ざって見える。
混色と同じで、重ねる色が似ていれば、色は鮮やかなままですが、重ねる色が遠い色同士であれば色は渋くなります(黒グレーに近づく)
ちなみに…単に色が混ざるだけでなく、色は濃くなります。なので影を表現する時にも便利です。
水彩初心者の方だったら、最初は似たような色を重ねてみるのがおすすめです。上の画像のように、緑やブルーの上にターコイズブルーを重ねる混色などは失敗が少なくおすすめです。
他にも黄色の上に緑や黄色やオレンジの上に赤を重ねるのも、きれいですよ。
重ね塗りの役割
どんな時に使うのか考えてみよう
どんな時に重ね塗りを使うの?
なんのために重ね塗りをするのか?
重ね塗りをどんな風に使うのかについては、人によっても様々ですが、大きく分けるとこんな感じが多いのではないでしょうか??
- 影をつける、色を濃くする
- 色の調整
- 下地を塗って複雑さ、統一感をもたせる
透明水彩では漠然と色を重ねていくと、意図せず彩度が落ちてしまったり、紙を傷めてしまうこともあります。なので、「何のために重ね塗りをするのか?」ということを整理しておいた方がいいですね。
重ね塗りはきれいにできないことも多いので
あまり多用しすぎない方がいいこともあります。
そして重ね塗りをしなくても済むところは、最初から色を濃くズバッと入れておいた方が綺麗なこともあります。
1つずつ見ていこう!
重ね塗りで影をつける、色を濃くする
影をつける
これは一番よくやるパターンです。
透明水彩はとにかく水とのお付き合いです。普通の絵具と違ってシャバシャバのものを紙に塗るのです。なのでコントロールがしにくいです。
ウェットインウェットで、影をつけることもできなくはないですが、絵具は流動的なので、乾くと思わぬところに絵具が広がっていて思ったような影になっていません。色も足りなかったりします。
なので、いったん乾くのを待ち、乾いたところに重ね塗りして色を加えていく方が、確実だし、簡単です。
なので、同じような色を重ねて影にすることもできますし、別の色を影色に持ってくることもできます。この影色を絵全体で同じ色にしたりすると統一感が出ます。肌はこの色、服はこの色、葉っぱはこの色、と部位ごとに変えるもの面白いです。影を黒やグレーで塗るのは、透明水彩では少し重たいことが多いです。
色を濃くする
一回塗っただけでは色が足りない、ということもよくあります。
透明水彩の場合、濡れている時には、ちょうどいいように感じるのに、乾くと色が薄くなってしまうことがよくあります。
そういう時は重ね塗りをして色を濃くするしかありません。
濃い色を塗りたい、と思うと重ね塗りが何度も必要になることが多いです。そういう時は水彩紙も選ばなくてはいけないんです。
重ね塗りで色を調整する
重ね塗りで新しい色を作るのは難しい
青の上に黄色を重ね塗りすれば、緑にはなるので、混色ではなくて重ね塗りでも新しい色を作ることはできます。
ただ、重ね塗りで、狙った色を作るのはかなり難しいです。
理由は、
- 重ね塗り自体が、かなり画材を選ばないとできない場合が多い、ハードルの高いテクニックであるということ(後述)
- 重ね塗りは色の濃さや水加減によってもムラになりがちで、同じ色を正確に作ることが難しい
2つの理由からです。
重ね塗りは色調の調整に使うのが効果的
重ね塗りでできるのは「色作り」というよりむしろ「色の調整」なのかな、と。
。全体的にピンクに塗った花に黄色を少し重ねて全体的にオレンジに寄せる。緑に塗った葉っぱに茶色を重ねて渋みを足す。など。
緑の上に黄色を重ね塗りして、明るくする。など。。。
重ね塗りで全く新しい色を作る、というよりは
少し違う色を加えて微調整するイメージかな
重ね塗り、混色の比較
混色してはいけない、重ね塗りの方がいい、みたいな記述も時々見かけるのですが…
混色=絵具にない色を作るテクニック
重ね塗り=色を変化させたり微調整するテクニック
別々のテクニックとして理解する方がいいかなと思っています。
左は、青の上に黄色を重ね塗りしています。右は青と黄色を混ぜて緑を作っています。
混色して作った色には安定感があります。欲しい色が決まっている時には、パレット上で混ぜてから塗った方が、色のコントロールがしやすいです。
重ね塗りの場合は、どのくらいの色になるか予測がつきにくいです。色が、下に塗った色の濃さと上に塗った色の濃さに左右されるからです。その代わり、ムラができるので、色が複雑に見えて深みを感じやすいです。
混色もまた、とても奥が深いので、ぜひこちらの記事を♪
下地を作って重ね塗りする
最近、これはかなり重要なテクニックだと思うようになりました。
なんだか、出来上がった絵に深みが足りない。
統一感がなくバラバラに感じる。
ということがありませんか。
なんとなく統一感がない感じになっちゃう
一つ一つの対象を塗り絵のように、分けて塗ってしまうと、バラバラに感じることがあります。
特に自然物はそのまま見たままの色の絵具で塗ってしまうと、なぜか物足りない感じになってしまうことがあります。
なぜかというと、透明水彩は透明感がある画材なので、紙の白が残ってしまうのです。
なので下地色で塗っておくと、複雑さが増したり、画面全体の統一感を出すことができます。
例えばリンゴなら赤で塗ると思いますが、塗る前に鮮やかな黄色の下地色を塗っておくのです。葉っぱならイエローオーカーを塗っておきます。
その上から、固有色(リンゴなら赤、葉っぱなら緑)を塗ると、しっかりした感じに見えます。自然物を塗る時には下地色を塗っておくとかなり、リアリティが感じられる表現になります。
また人物イラストでも、茶色やイエローオーカー、ベネチアンレッドなど、ベージュや薄茶色を思わせる色を下地に塗っておくと統一感が出やすいです。(少し落ち着いた感じになります)
スピナルブラウンを下地にしています。完成品がないのでイメージしづらいですが…💧
もちろん別の効果もある
重ね塗りでできることは、大きく分けるとこの3つかな、と思いましたが、もちろんこれ以外にもあると思います!
重ね塗りそのものを効果にするというのもその一つかもしれません。
私はよく混色見本を葉っぱの形で作るのですが、それも絵具に透明感があるので、葉っぱが透けて重なっているように見えています。「透けているように表現する」というのも、重ね塗りでできることの一つかと思います。
重ね塗りで全く新しい色を作るのは、ちょっと難しいと描きましたが、うまく生かしている作家さんもいると思います。絵柄にもよりますし、使う色や水彩紙にもよります。いろいろなやり方を試してみてくださいね〜〜
意外とうまくいかない重ね塗り
でも意外ときれいにできないよね。
重ね塗り。
上から塗ると下の色が溶けちゃったり…
そうなんです。意外ときれいにできない重ね塗り…
上から色を重ねたら、下の色がふわ〜っと溶けて、色が混ざってしまったり、ごっそり下の色が取れてしまったり。やり方は悪いのかな?と思ったりするかもしれませんが、ほとんどは水彩紙のせいです。(筆や絵具も関係があります)
なので、うまくいかないな〜と感じたらこの記事を読んでみてくださいね。知っているだけで役に立ちます!
重ね塗りは透明水彩独特の技法
透明水彩は、その名の通り透明感がある画材なので、「重ね塗り」はとても透明水彩を代表するテクニックですよね。
うまく重ねると、とても透明水彩らしい!
薄いセロファンを何枚も重ねたような見た目。これは透明水彩ならではですよね。
うまくこの性質を使って、透明水彩らしい絵を描いてみたいですね。私は、割とガッツリ重ねてしまって、この透明水彩らしい効果をあまり生かさない画風なのですが…でもとても重宝しているテクニックですし、とても奥が深いです。
また、少しずつ追記していきたいと思っていますので、お楽しみに♪