今回のテーマは「透明水彩の黒」についてです。「黒は使ってはいけない色」として、技法書で紹介されることもあるので、その理由と対策、おすすめの黒の絵具について、お話したいと思います。
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黒は使ってはいけない色?
透明水彩の技法書や、よく「黒は使わない」と書いてあります。また子供の頃、「なるべく絵具の黒は使わないようにしましょう」と習った方も多いのではないでしょうか。実際のところ、どうなんでしょう?本当に黒はいらないのか、それとも必要なのか。

黒は使わない方がいいのかな?
「黒を使ってはいけない」というと、ちょっと抵抗を感じる方も多いかもしれません。
私も「黒は使ってはいけない」とまでは思いません。なんだかんだ毎年パレットに黒の絵具入れてますしね…。
ですが、色々画材研究をしてみて、改めて感じたことがあります。
それは「透明水彩で、黒を美しく見えるように使うのは、それなりにスキルが必要」だということです。もちろん使ってはいけないわけではないし、黒の絵具にしかできないこともあります。黒を魅力的に使いこなしている作家さんもたくさんいらっしゃいます。
が、特に初心者さんにとっては「安易な気持ちで使って欲しくない色」でもあります。
それにはちゃんと理由があるので、それをまとめてみたいと思います。
(こちらの記事は2020年に投稿し、反響があったのですが、また改めて考えてみたいと思います!)
問題①黒は透明水彩には強すぎる色??
カラフルな色に黒が入ると?
突然ですが、こちらの絵具のにじみをご覧ください。特に何も考えずに、ランダムに色をにじませました。

さて、どちらの方がきれいに見えるでしょうか。
もちろん好みはあると思います。ですが…右の黒のにじみは「あんまりきれいに見えない」と感じる人が多いのではないでしょうか。

あらら…
左も渋みのある色をにじませていたり、そこまでバランスが良くはないのですが、それでもなんとなくカラフルで楽しい感じは伝わってきます。ですが、黒の方は、バランスを考えず適当に入れたこともあって、キレイに見せることができていません。なんとなく汚れているように感じる方もいるのではないでしょうか。

やっぱり黒はちょっと難しい!
透明水彩には黒は強すぎることが多い
まず、透明水彩にかかわらず、「黒」はとても強い色です。黒は色彩がなく、明るさも最高レベルに暗いです。赤や青、黄色など、他の色とは違うのです。なので、黒はとてもインパクトを出せる色でありながら、そのまま絵の中に取り入れると、異質な感じがしてしまうことが多いのです。

また透明水彩は、透明感のある画材なので、紙の色を生かして塗ることが多いです。顔料の量も少なく、色も全体的に淡いので、インパクトが弱かったりします。そこに真っ黒を乗せてしまうと、他の色と差が生まれ、そこだけ浮いた感じに見えたりします。

つい黒に目が吸いこまれるね
なので、透明水彩の色彩と真っ黒とはあまり相性がよくありません。
問題②黒を混ぜたり重ねたりすると、色が渋くなりすぎる
黒の絵具を使うことの問題点はもう一つあります。それは、鮮やかな色に黒を混ぜたり、重ねたりすると、思ったより色が渋くなりすぎることです。
黒を混ぜると、色が鈍くなりやすい
「少し渋い色をつくりたい」「少し暗い色を作りたい」
そんなとき、黒を混ぜて色を暗くしようと思うことありますよね?
透明水彩の場合、安易に黒を混ぜてしまうと、思ったより色が沈んでしまうことがあります。渋い色や暗い色を作ることがいけないことではないのですが、安易に黒を混ぜると全部が似たような色になってしまいがちです。


ちょっと作りたい色とイメージが違ったかな?
また、黒を混ぜると色のイメージが変わってしまうことも多いです。くすみピンクを作ろうとピンクに黒を混ぜると「くすみピンク」を通り越して、あずきアイスのような色になってしまったりします。また黄色に黒を混ぜると、オリーブのような色に変化し、黄色ではなくなってしまいます。
このように、渋い色を作るのに、なんでもかんでも黒を混ぜると、思ったような色にならないという難しさを感じることが多いです。
黒と相性のいい色もあるのですが、あまり相性のよくない色もあります。
私はくすみカラーを作りたい時に黒を混ぜることは、ほとんどありません。それぞれの色に相性のいい色があって、それを混ぜてくすみカラーを作ります。
影の色として黒を重ねると、暗くなりすぎる
影の色を作ろう!と思った時に初心者さんがやりがちなのが、黒を混ぜて暗い色を塗る
または黒を薄めて重ねる、という方法です。

濃い青や紫に重ねるなら、あまり違和感がないのですが、黄色や肌の色、ピンクのような暖色系や黄緑、ターコイズブルーのような明るい色の上に、黒を重ねてしまうと、これまた鈍すぎて、キレイに見せるのが難しい!せっかくの明るく鮮やかな色が台無し、ということも…

なんとなく黒を重ねたら
影っぽくなるかなと思ったけど…
やっぱり黒の重ね塗りも、とっても難しいです。もちろんキレイに見せる方法もあるのですが、かなり計算とスキルが必要です。
①の解決。強すぎる黒の代わりにこれを試そう!
では、どうしたらいいのでしょうか?1つずつ考えてみたいと思います。
濃いめのグレーや青の暗色で置き換え!
おすすめの方法は、黒の代わりにインディゴ(紺色)やセピア(焦茶色)で置き換えることです。もし黒の絵具を使うとしても、そのまま使うより、別の色を混ぜて、ソフトな色にする方が断然他の色となじみます。
黒の代わりに使うのにおすすめな色はインディゴやセピアです。

おすすめのインディゴ↓
もしインディゴやセピアでは色の濃さが足りない時には、ペインズグレーやニュートラルチントもおすすめです。いわゆる黒絵具と比べると、少し青がかっていて、色も少し明るめです。こちらも透明水彩では他の色と馴染ませやすいおすすめの色です。

ペインズグレーやニュートラルチントは決まった顔料があるわけではなくて、メーカーによって少しずつ色味が違うので、比較したい方はこちらの記事を。特にニュートラルチントはメーカーによってかなり色が違うので、チェックしてから買った方がいいです。
混色でダークカラーを作って置き換え!
こちらはちょっと難易度が上がりますが、色を混色してダークカラーを作る方法です。補色同士を混ぜると黒っぽい色になるのは知っていますか?

「青+オレンジ」や「赤+緑」は補色同士の中でも、黒っぽい色を作りやすい色の組み合わせ。それを活かしてダークカラーを作ってみましょう。

色の組み合わせによってはかなり色が暗くなります。これは試すのもとても楽しいので、ぜひ色遊びしながら黒を作ってみましょう。混ぜ切らない色も一緒ににじませると、黒い絵具よりも、青がかっていたり、紫がかっていたりして、とても豊かな表情になります。
これをうまく使うととても他の色となじみやすくなります。
②の解決!黒い絵具を混ぜる代わりに
混色や重ね塗りについても考えてみましょう。
黒ではなく、グレーを混ぜてみよう
色を暗くしたいときやくすみカラーを作りたいとき…。
別に混ぜる色は黒でなくてもいいのです。黒以外にも、くすみカラーやダークカラーが作れるような色があります。

同系色の暗い色を混ぜてみたり…。先ほどご紹介したインディゴは、混色にも便利。他にもそれぞれの色に合ったダークカラーがあるのでぜひ探してみてください!上の画像を見ても分かるように、黒ではない色を混ぜた方が、使いやすい色味になることも多いです。
また明るめのくすみカラーを作りたいなら、黒ではなくてグレーを混ぜてみるのもあり。ホルベインのグレイオブグレイはおすすめの色の一つですね。

こちらの記事もおすすめです↓
黒以外の色を重ね塗りをしてみよう
透明水彩では影の部分に暗い色を塗るのではなく、同じ色を重ねて暗くしてもいいんです。

透明水彩では、隣と隣の色との境目が曖昧になりがちなので、最初はあまり沈んだ色合いにしない方がキレイに見えることが多いです。同じ色で重ねるのは一番簡単な方法です。
他にも青や紫を重ねて暗くする方法も、とても良い方法です。多くの作家さんが、この方法を使っています。

こちらはおすすめのウルトラマリンバイオレット(シュミンケホラダム)絶妙な色です!

じゃあ黒い絵具はいらないの?

じゃあ黒の絵具はいらない?

やっぱり黒が必要という場面もあるよ!
ダークカラーを作る
黒に近いダークカラー(明度の低い色)を作るためには、黒があると便利なことも。
先ほど紹介した補色を混ぜて暗い色を作る方法でも暗い色は作れるのですが、色が暗くなると同時に彩度も一緒に下がってしまいます。元の色味、たとえば青にオレンジを混ぜるとグレーや茶色のような色になってしまうので、青さを保ちつつ、黒っぽい色にしたい時には、黒を混ぜるしかありません。
なので、透明水彩であっても、淡い色だけじゃなくダークカラーを積極的に使うぞ!という方はパレットに黒を入れると便利です。

このような色がダークカラーですが、特によく使うのが、深い青ですが、その他に深いグリーンや、深い紫も黒がないと作れない色ですね。
ピンポイントで黒で塗りたい場面もある
例えば、風景画の場合、お店の看板の文字や瓶のラベルの文字など、ピンポイントで黒を効かせたいこともあります。人物や動物を描く人は、髪色や瞳の色としてどうしても黒を使うという場面もあります。そういったときには、やはり黒はあった方がいいですね。
なんだかんだ枯葉も時々黒の絵具を使っています。
枯葉が黒を使う場面は、目元のアイラインや鳥籠の枠など面積が小さいけれど、しっかり黒くしたい時など、ぼちぼちあります。

補色で黒も作れますし、ペインズグレーも便利ですが、ちょっと色の濃さが足りないなーなんてこともあるので、そういう時は黒が活躍。ケースバイケースですね。
ただ絵全体の色調が淡くて繊細な場合は、むやみに黒を入れず、紺やグレーで代用できる場合もあると思います。
黒絵具を色々比較してみた!
では黒の絵具にはどんなものがあるか、ご紹介したいと思います。私もあまり黒は使わないので、そこまで意識したことがなかったのですが、黒の絵具もそれなりに種類がありました。

実はもっと種類があるのですが、よく見かける黒はこの4つです。
アイボリブラック(PBk9):暖かみのある黒。モケモケする。12色セットに入っていることが多い。カビが生えやすいのが弱点。
ランプブラック(PBk6):滑らかでマットな黒。少し青みがある。クセがなく塗りやすい。
ピーチブラック(PBk1):黒の色味が強く濃い。ジェットブラックの名前でも知られてる。
マースブラック(PBk11):粒子感のある黒。混色すると面白い。
どれがいいか迷ったら、とくに癖のないランプブラックがおすすめです。X(Twitter)で愛用の黒絵具を募ってみたところ、アイボリブラックを愛用しているという方が多く、ピーチブラックの強い黒みに興味津々という方も多かったですね。
先ほどもご紹介した通り、ペインズグレーやニュートラルチントもおすすめの色ですね。枯葉もペインズグレーか、ニュートラルチントをパレットに入れることが多いです。


この2色は濃く塗れば真っ黒です。薄く溶くとペインズグレーは青みがかったグレー、ニュートラルチントは紫がかったグレーになります。どちらのグレーでも、他の色味と調和しやすいし、青や緑、紫、ローズ色との混色で相性もいいです。
そして、少ない水でサッと溶けて、伸びもよいです。
黒の成功例と失敗例
初心者の頃には黒をかなり絵に取り入れていましたが、淡い色と一緒に使うと、キレイに見えなくてとても悩んだ記憶があります。最近では真っ黒ではなく、紺色や焦げ茶色を黒の代わりに使うことも多いです。
ところが、やっぱり黒も使ってみたい気持ちになることがあり、定期的にチャレンジしています。
なので、自分的な失敗例と成功例を。

↑こちらは服を真っ黒に塗ってみたのですが、やはり黒の色味が強すぎます。他の色合いが淡く、水彩らしいソフトなタッチなので、黒とは合っていないかな。この絵をパッと見たとき、思わず黒い服に視線が吸い込まれてしまい、人物の顔が目立ちません。なので、やはり透明水彩の絵に、真っ黒を取り入れるのは難しいと思いました。ただ雰囲気は気に入っているのでリベンジしたいです。

↑一方こちらの作品は、背景の建物を黒にしましたが、真っ黒ではなく、青と茶色を混ぜたダークカラーを塗りました。なので、真っ黒ではなく、少し青っぽいところや赤っぽいところが見えます。そのため、背景に塗った青や人物の塗りにも、なじんでいて、絵の中で浮いていません。パッと見たときに、人物の表情や髪の毛、衣服やペンダントを掴んだ手元にも視線がいくと思います。

↑思い切って背景を真っ黒にした作品です。オレンジとのコントラストが目を引く作品で、SNS受けはよかったのですが、同時に見ている人に緊張感を与える作品だとも思いました。ちなみにこちらはホルベインのスーパーオペークブラックで漆黒に塗りました。背景を真っ黒にしてしまうのは、1つの取り入れやすい黒の使い方だと思いました。


↑小作品ならば黒も取り入れやすい。小面積だと真っ黒もそこまでインパクトを感じないですね。
まとめ
- 黒い絵具はダークカラーを作りたいとき、真っ黒にしたい時に必要
- ただ、黒い絵具に頼らず、補色でグレーや黒を作る方法も学ぶべし
- 黒い絵具の代わりにペインズグレーやニュートラルチントもおすすめ!
いかがでしたか?
透明水彩に限らず、絵画では扱いの黒は難しい色の1つです。

何年も絵を描いているけど、いまだに悩ましい💧
もちろん黒を使うのがいけないわけではありません。うまく使えると、とても印象の強い絵になったりもします。ただ、他の色と比べて扱いが難しいのも事実。
今回、記事を新しくするにあたって、たくさん黒や暗色のサンプルを作ったのですが、黒の絵具を塗ったのと、鮮やかな色同士の混色で黒を作ったのでは、似たような色に見えてもかなり視覚的効果が違うと感じました!なので、「どちらも上手く使えるといい」と改めて思いました。
2020年7月10日記、2024年3月16日リライト
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