絵具の名前に「ヒュー」とついたものがあります。例えば、ビリジャンとビリジャンヒュー。この2色の絵具、名前が似ているのですが、色も違うし値段も違います。一体何が違うのか、どっちを買えばいいのか?今回はこの「ヒュー」に焦点を当ててみたいと思います!
Table of Contents
ヒューとは一体何なのか?

ヒューって一体何なの?
枯葉が水彩を始めたての頃、よく絵具選びで疑問に思っていたのが「ヒュー」って一体何なのだろう?ということ。
例えば、ホルベインの「ビリジャンヒュー」「コバルトブルーヒュー」「バーミリオンヒュー」
他にもWNの「マンガニーズブルーヒュー」とかですね。シュミンケホラダムの「コバルトブルーヒュー」「セルリアンブルーヒュー」など。
たいていの場合、オリジナルの色の方が値段は高くて、ヒューとついた絵具の方が値段は安いです。
昔の枯葉はこう思っていました「ヒューとはニセモノという意味」なのだと!

ビリジャンヒューはビリジャンのニセモノ…

廉価版ってことかと思ってた…
じつは偽物でも廉価版でもなく、ヒューとはhue「色相」という意味です。
つまりオリジナル(元になっている色)と同じ色相の絵具を、別の顔料で作った絵具のことなんです。どちらかというと「代替色」のニュアンスが大きいです。
ヒュー色が必要な理由
何でそんな色が必要なのか??理由は色々あります。
- 元の顔料の毒性が高く、すでに廃盤になっている
- 元の顔料は耐光性が乏しい、堅牢性に問題がある
- 元の顔料の価格が高め
など、複数の理由を持っていることもあります。顔料の世界は日進月歩なので、もっと優れた顔料が後の時代に発見されることもあるので、別の優秀で安全で安価な顔料で置き換えてしまうこともあるのです。元のオリジナルの色にはすでに愛用者がいるので、別の顔料で似たような代替色を作ったりするみたいですね。

なるほど!
置き換えられちゃうんだ。
毒性があったため、代替色が生まれた
マンガニーズブルー(PB33、有害なマンガン酸と硫酸バリウム)やバーミリオン(硫化水銀)は毒性の問題から、別の顔料に置き換えられています。
マンガニーズブルーは有害なマンガン酸と硫酸バリウムが原料の顔料となっていて、顔料自体も廃盤となっており、見かけることはありません。マンガニーズブルーは、粒状化の激しい鮮やかな水色です。こちらは、マンガニーズブルーヒューとして、色味がにているフタロブルー顔料で置き換えられています。

バーミリオンは水彩絵具としては、見かけませんが、日本画では辰砂(しんしゃ)として現役とのことです。また、顔料単品だとまだ硫化水銀のバーミリオンは健在です(思わず好奇心で購入してしまいました)
ちなみに、バーミリオンに関しては、バーミリオンヒューという表記の代替色もあるし、バーミリオンという名前のまま代替色が売られていることもあります。中身はいずれもバーミリオン顔料ではありません。
高価なので代替色が生まれた
コバルトブルーやセルリアンブルーは、普通に絵具のラインナップに入っていますが、高価なので安価な顔料を混合して置き換えている絵具を一緒に売っているメーカーもあります。どちらも粒状化色なので、置き換えているのには、より滑らかな顔料で、ということもあるのかもしれません。

↑こちらは、コバルトブルーとコバルトブルーヒュー。コバルトブルーはPB28で、コバルトブルーヒューはPB29とPB15の混合なのでウルトラマリンとフタロブルーを混ぜたものということになります。写真で見ると似たような色にも感じますが、色味、色の濃さ、伸びなど、やっぱり別の色ですね。

どっちも欲しくなっちゃう!
ホルベインのビリジャンは、オリジナルの色はPG 18という優しめの青緑で粒状化色、そして高価なので、ビリジャンヒューはフタログリーンPG7でもっと鮮やかな青緑に代替されているようです。ただ、この2色はまったく違う色なので、また次の章でじっくり比較をしてみたいと思います。

置き換えている顔料は、複数の顔料で置き換えていることもあるし、単一顔料で置き換えていることもあります。
オリジナルの色の方が彩度が高いこともあるし、ヒュー色の方が彩度が高いこともあります。
オリジナル色とヒュー色どちらが優れているのかは、色によっても違うので、一概には言えませんが、「ヒュー色」はさまざまな事情で置き換えが進んだ色なので、安全性や価格などで優れた点を持つことも多いです!
ビリジャンとビリジャンヒューを比べてみた
今回はビリジャンに焦点をあててみます。
ビリジャンの中身はPG18という顔料で水酸化クロムです。いままでこの色を使ったことがなかったのですが、興味をひかれてメインパレットに入れてみました。
こんな色ですね〜〜!あまり濃くつかない色で、淡めの青緑色。そこまで鮮やかではなく、やさしめのグリーンですね。そして粒状化色、粒子の荒い色です。ざらざら〜っとしてます。で、すごく溶けにくいです!なので固めて使うやり方には向いていません。使うたびにチューブから出すほうが使いやすいですよ。色々使ってみましたが、W&Nのものが特に溶けにくかったですね〜(廃盤になりました)

ビリジャンヒューのほうはPG7という顔料で、こちらはフタログリーン顔料です。より現代的な顔料で、あまりの彩度の高さと透明感、粒子の細かさにより、さまざまな絵具で使われています。とにかく優秀。画像だとビリジャンと同じような色に見えますが、もっともっと鮮やかな色です。

全然違う色なので、この色がビリジャンヒューと呼ばれているのは、ホルベインくらいで、他のメーカーではシンプルにフタログリーンと呼ばれていることも多いです。が、けっこうメーカー独自の名前で呼ばれていることが多く紛らわしいことこの上ないです。ちなみにPG36は双子の弟分。
ビリジャン | ビリジャンヒュー | |
顔料 | PG18 | PG7 |
顔料の歴史 | 1838年ごろ | 1935年ごろ |
色の鮮やかさ | ややくすんだ青緑 | かなり鮮やかな青緑 |
発色 | やや弱め | 強め |
粒子の荒さ | 荒い | 滑らか |
透明度 | 高い | 高い |
溶けやすさ | かなり溶けにくい | 溶けやすい |
耐光性 | 高い | 高い |
価格 | 高価 | 安価 |
う〜〜ん。こうしてみるとオリジナルのビリジャンはかなりクセありですね。
値段が高いので、こちらの方が優れた色だと思ってしまいがちなのですが、必ずしもそうでもないのです。主力の戦力にできるのはビリジャンヒューの方だったりします。
ビリジャンヒュー、スペック高っ(というか、この名前、紛らわしいので変えて欲しい…普通にフタログリーンとお呼びしたい)

フタログリーンさま…
ただこのビリジャンヒューもスペックの高さゆえに「鮮やかさと発色の強さがかえって使いづらい」と敬遠されがちなので、フル活用する記事をつくってみました。ついでにメーカーごとの絵具名もまとめています↓
ビリジャンとビリジャンヒュー塗り比べ!
まったく別の色なので、別々の色として、使い方を色々考えてみました。
今回は黄色やオレンジなどの混色を試してみました。ビリジャンも落ち着いた感じの絵には合う、あと分離色作れますね!

ビリジャンの方は、ムラになりやすかったり、にじみがひろがりにくかったり、パレットに乾燥させてしまうと溶けづらかったり、とにかく塗りづらさがあったりするので、あまり愛用者も少ないかなと思うのですが、粒状化を生かした優しい発色のグリーンと捉えれば、けっこうこちらも味があります。
これで描いてみたのはこちら。
ビリジャンヒューだと滑らかでこぎれいにまとまりがちなのですが、ビリジャンの方もややクラシカルな印象で悪くない!絵柄との相性もあるのかなと思いますが、おすすめですよ。

やや荒い水彩紙との相性がいい感じがしました。

ヒューについて
ヒュー表示があるもの、いったいどんな色なんだろう?ってちょっと気になりますよね。
一口に「ヒュー」といっても色々あるので、「ヒュー色」と「オリジナルの色」どちらが優れているか?というのはなんとも言えません。
個人的には「オリジナルの色が廃盤になってしまった色」の「ヒュー」はもう全く気にしなくてもOKと思ってます。マンガニーズブルーやバーミリオンなどです。これは名前だけが残っている感じなんです。迷いなく「ヒュー色」を使うのでOK!
コバルトブルーヒューやセルリアンブルーヒューだったら、オリジナルの色もいい色なので(高いけど)、ぜひ使ってみて欲しいなと思いますね。
あとは紛らわしいのが、「ヒュー」がついていないのにも関わらず、中身の顔料を見ると「代替色」である、というパターンも存在します(結構ある)

あら…
そんなこともあるんだ💧
たとえば、ホルベインのバーミリオン、コバルトグリーンなどです。他のメーカーでも「オーレオリン」「アリザリンクリムソン」など、ちょいちょいあります。
なので「その絵具がどんな絵具なのか」を知りたい時は色名だけで判断せず、使われている顔料をチェックすることが大事なのです!!
ちなみに混同されやすいのですが、「チント」は「白を混ぜて色調を明るくしたもの」を指すそうです。
ということで、「ヒュー」の謎を紐解いてみました!絵具を買う時の参考にしてみてください☺️
顔料のことをもっと知りたくなった方はこちら↓
単一顔料って何?と疑問に思った方はこちら↓